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イジュの花

うりずんから梅雨にかけて、やんばるの森は真っ白いイジュの花で覆われます。
幾つもの小さい白い花が咲き誇るその様は、遠くから見ると、曇りの空の下にまるで霞がかかったようで、南国らしいおおらかさと繊細で洗練された風情です。
子どもの頃、学校の徒歩通学路を往くと、どこからともなく漂ってくるこの花のほんのり甘い香りでむせて、苦手でしたが、大人になると香りの嗜好も変わるのか、大好きなジャスミンやホワイトジンジャーリーリーの香りにも似て、清楚で優雅、そして少し官能的でもあり、私の好きな白い花たちはみんなどこか芸術的な香りがします。

数年前、沖縄出身で国内外で活躍するシンガーソングライターの東風平高根さんと、原宿でディナーショーを行った際の初打ち合わせで、ふと自分の歌を作りたいと思いました。
何十年もの間、心の中にあったまだ言葉にもなっていなかった想い。
やんばるの野山に咲く小さく愛らしい花々と、その花々に重なる大事な人たち。
その想いを詩にして、高根さんに曲を付けてもらう事になりました。
打ち合わせが終わるや否や、心が急いていたのか、ほぼ小走りで帰宅して、すぐさまペンを取る。
「天から降りてくる。」とはこういう事かもしれません。
書き始めてから一度も止まることなく、5分ほどで一気に書き上げました。
早速、高根さんに詩を送ったら、翌朝には高根さんらしい優しい曲想の歌ができていたという超高速。ディナーショーでお披露目となりました。
そして2022年2月2日にこの歌のタイトルを冠したミニアルバム「花想い」をリリース。
編曲の中内計さんには、チェロを入れて欲しいとお願いしたら、チェロの深く温かい音が際立つ素敵なアレンジにして下さいました。

「花想い」HANAUMUI

1.うりずんの雨に打たれて匂い立つ 
 真白き花はやんばるの森を守るイジュの花
 平和の花 友の花

2.しなやかに風に揺られて 強く立つ
 曇りの空にも微笑むは 薄紅色の花芙蓉
 母の膝のあたたかさ

3.潮風にゆらゆら揺れる ふるさとの青空仰ぐ黄金は
 いつも笑顔で前を向く
 幼馴染のゆうなかな

4.五月雨の雫に濡れて 光満ち
 匂い芳し月桃は シャラシャラシャラとにぎやかに
 まんまる笑顔のお月さま

やんばるの森ならどこでも見られるイジュの花ですが、私のお気に入りは、東村の福地ダム界隈。
雨が小降りになると、ひとり実家から数分車を走らせ、福地ダムから見下ろす森が白く薄いヴェールに覆われているような光景に、『綺麗ね~!綺麗ね~!』と何度もつぶやく。
幾種類もの鳥たちの鳴き声が山々に響き、楽園そのもの。

この辺りは、先の大戦で住民が川伝いに逃げて避難した場所でもあり、多くの命がこの森に守られました。
無念にも失った命もあります。
森の中には、外国人の労働者が重労働をしていた場所があったとの証言もあり、沖縄県の水瓶を擁するこの森は、その一部始終を見て来ました。

やんばるの森に立つと、例えば玉辻山の頂上。南国の木々の下から熱いものが湧き上がってくるのを感じます。
それは深いけど重くなく、足元から包み込むような温かさが安堵をもたらせてくれ、時々スッと涙がつたう事も。
色んな事を記憶してきたであろうこの森。
花々は、その悼み、痛みを慰めるかのように森を覆い、森はまた、私たちを包み込み、平穏や希望さえ与える。引き受けた全てをその土の奥底に流して。
やんばるの森は計り知れないほど深い。

イジュの花に想う友人が、イタリアから帰国したばかりの私に贈った詩があります。
鎌田東二氏の『聖なる場所の記憶』講談社
『場所は記憶を持っている。。。』という詩。
“場所は記憶する痛みを持ち、記憶をため、沈黙のモノガタリを、沈黙ではなくはっきりとした声で放つ。
そして、私たちがしなければならないのは、その沈黙の声を聴きとる耳を持つ事。”
詩を転載できないので、私なりの要約でご容赦下さい。

雨に濡れてしっとり咲くイジュの花は、まるでやんばるの森を守るかのようでこの上なく美しい。